平成28年度 プロジェクト概要

 インフルエンザやノロウイルス感染症の予防のために手洗いが重要であるといわれている。これらの感染症では患者は家庭で療養することがほとんどであり、地域、家庭での感染対策が重要となる。我々は平成26年度に地域住民を対象とした手洗い指導の方法について検討し、教育用のツールとして手洗いポスターや配布資料などを作成した。平成27年度には尼崎市のすべての公民館(6公民館)と連携し、公民館において、地域住民を対象にした「手洗い講習会」を開催し、その必要性や効果について検証した。28年度には、本学の授業として展開している「つながりプロジェクト」と連動させ学生による感染対策のための手洗い講習会を開催し、地域住民の意識調査を行いたいと考えている。これらの研究成果により、地域を感染症のアウトブレイクから守るための手洗い指導の拠点を構築したいと考えている。

平成27年度 活動報告

平成26年度 活動のようす

【はじめに】
 市井において頻発するインフルエンザ やノロウイルス感染症では、ほとんどの 患者が家庭において療養することから、地 域における感染対策が重要であり、手洗いやうがいが推奨されています。そこで本研究では地域に向けた手洗い指導の拠点の構築のための準備として、中高年層を対象とした手洗い指導の方法を検討しました。

【方法】
 本学生涯学習センターの受講生に手洗い教室への参加を呼びかけ、同意が得られた受講生を対象としました。「手洗い教室」では蛍光ローションを手に塗布して手洗いを施行し、蛍光ランプで洗い残したところを観察してもらい、その後、手洗い手順を示したポスターを用いて手洗い方法を指導しました。「手洗い教室」の効果を検証するために教室開催前後で手洗いを行ってもらい、手洗い手技および除菌効果の改善について確認しました。手洗い手技の評価は、手掌、手背、指間、指先、母指、手首の6カ所それぞれについて、こすり合わせているかどうか、すすぎおよび乾燥について十分に出来ているかどうかで2点、1点、0点の3段階で評価しました。手洗いの前後でパームスタンプSCD寒天培地を用い、手のひらの細菌を採取し、37℃で48時間培養し、形成されたコロニーを数えました。また、「手洗い教室」に関するアンケート調査も行いました。

【結果・考察】
 手洗い手技の評価:指導前は指先、母指、手首をこする人は10%前後と非常に少なく、すすぎを十分に行っている人も約50%です。しかし、指導後では指先は約85%、母指は74%、手首は96%の人が洗浄していました。手洗い点数で見ると、指導前後の変化は、手掌平均1.8点から2点、手背1.4から1.9 、指間1.1から1.6、指先0.6から1.8、母指0.3から1.6、手首0.6から2.0、すすぎ1.5から1.9、乾燥1.6から1.9と有意に上昇(p<0.05)しており、手洗い手技は向上しました。  細菌数の評価:指導前は、手洗い前平均422CFU、手洗い後449と増加しましたが、指導後は、手洗い前323、手洗い後289と有意差はないが減少しました。  アンケート調査の結果:手洗い教室受講前に感染症予防に手洗いが重要だと思っていた人は63%であったが、教室後は93%と増加しました。また、手洗い方法を習ったことが無いと答えた人が85%であり、地域における手洗い教室の必要性がうかがえます。ポスターを用いた手洗い方法の説明については「よく分かった」が78%、「だいたい分かった」が22%であり、ポスターも有効に利用できたと考えます。また、「教室で学んだ手洗い方法を家族や知人に伝えたいと思いますか」という項目について96%が「はい」と答えており、教室を開催することで感染予防のために有効な手洗い方法が地域に広がる可能性があると考えます。
【現在の進捗状況】
 上記の研究成果について、第30回日本環境感染学会、および18th EAFONS (East Asian Forum of Nursing Scholars)における発表を申し込み中です。今後、研究成果をもとに作成した手洗い教室を地域の自治会などで開催するための連携先を検討したいと思います。